自筆証書遺言作成のポイント

 2020年7月10日より、自筆証書遺言書の保管制度が始まりました(当コラムでもご紹介済みです)。ある意味、自筆証書遺言制度の大改革とでも言いましょうか、それに先立ち、昨年1月より、自筆証書遺言の財産目録作成に関する規定が緩和されました。これにより、自筆証書遺言の作成に関して、以前より手軽にできるようになったというイメージが膨らみ、自筆証書遺言の作成を勧める専門家が多くなったように思えます。

確かに、財産目録の作成が容易になったことと自筆証書遺言書の保管制度を利用することで家庭裁判所の検認が不要になったことは、自筆証書遺言の作成を推奨する形になったことは間違い無いと思います。

しかし、法的効果をもたらすものですから、押さえるところは押さえておかなければなりません。財産目録の作成にしても、すべての財産を自書する必要がなくなったことは大変助かりますが、毎葉に署名捺印が必要であったり(これは法的に必須です)、本文との一体性の証明(これは争い防止のための実務的な必要性です)をいかにするか、など押さえておかなければなりません。

「簡単になった、検認が必要なくなった、だから自筆証書遺言」という単純な考え方だけではダメなんですね。

今回は、自筆証書遺言の作成ポイントについて、相続人がいるということを前提にお話しさせていただきます。

そもそも遺言を作成する目的の主たるところは「争いの防止」でありますから、それを踏まえて作成していかなければなりません。

簡単になったから自筆証書遺言を作成しようと、遺言者が一人で作成した場合には、法的要件を充たさないものになってしまったり、争いの元となるようなものを作成してしまったり、ということもあり得ます。

自筆証書遺言を作成する際に、法的要件を確認することはもちろんのこと、遺言事項として「相続分・分割方法の指定」をする訳ですが、「この分け方で揉めることはないのか(遺留分も含めて)」をしっかりと考える必要があります。この場合、気を付けなければならないのは、指定をする際に、特別な場合を除き、「分数的割合の指定をしない」ことです。3分の1や4分の1という分数的割合指定をしてしまうと、ただでさえ遺産の分け方は難しいのに、その指定された分数的割合になるようにするにはどうすればいいのかという、更に難しいものにしてしまい、更には「争いの火種」になってしまう可能性もあります。

「相続分・分割方法の指定」の原則は、「何を誰に」という具体的な指定をすることです。これがポイントの1つ目です。

 次に、遺言の内容を実現させなければなりません。遺言は作成して終わりではなく、実現させることが最終目的です。基本的には具体的な相続分の指定を受けた相続人等が自ら行えば良いのですが、遺言の執行手続を行うのは専門家でない限り難儀な事でありますし、相続法改正により「法定相続分を超えた指定相続分の対抗要件の問題」や「相続人による遺産分割前の預貯金債権の行使」に係る問題等のリスク回避のためにも「遺言執行者の指定」を行うのが望ましいといえます、それも相続の専門家を指定することです。これがポイントの2つ目です。

 遺言事項として誰に何を相続させるか具体的に指定した場合でも、指定を受けた相続人が遺言者より先に他界してしまうこともあります。この場合、特段の事情が認められる場合を除き、当該遺言事項(先に他界してしまった相続人を指定している遺言事項)は失効するというのが判例の考え方です。その時点で遺言者が遺言の書き換えをすることができれば良いのですが、そうでない場合は失効してしまった遺言事項に指定されている遺産は、他の共同相続人で遺産分割協議をして帰属先を決めることになりますので、遺言を作成した意味がなくなってしまいます。

このようなリスクを避けるためには、万一にも遺言者より先に指定した相続人が亡くなってしまった場合にはどうするかを決めておいて遺言に記しておくことです。これを補充遺言(予備的遺言)といい、ポイントの3つ目です。

 そして、何故遺言を作成したのか、何故そのような相続分・分割方法の指定をしたのか、理由として遺言者の考えや、遺言者から相続人に対するメッセージなどを書き遺しておくことは大変重要なことで、「争い防止」の役目も果たします。これは「付言事項」といい、ポイントの4つ目です。

 財産目録を添付する場合には、前述したように毎葉に署名捺印をし、本文との一体性を持たせておくことが必要です。ポイントの5つ目です。

 自筆証書遺言を作成する上でポイントとなるものを5つほど挙げましたが、一般の方が通常一人で作成するにはなかなかここまでポイントを押さえることは難しいことだと思いますが、せっかく遺言を作成するのですから、多少時間がかかってもしっかりと作成したいものです。